アン・ハサウェイは約11キロを落とした過酷なダイエットで、アカデミー賞を手に入れました。
2012年公開の映画『レ・ミゼラブル』は、ヴィクトル・ユゴーの同名小説を原作とした伝説的なミュージカルを映画化した作品です。監督はトム・フーパー(『英国王のスピーチ』)が務め、制作国はイギリスとアメリカの合作です。上映時間は158分、製作費は約6,100万ドル、そして世界興行収入は4億4,180万ドル超という大ヒットを記録し、日本国内でも興行収入58.9億円に達しました。
物語の中心となる主要キャストは以下の通りです。
| 俳優名 | 役名 | 代表的な別作品 |
|---|---|---|
| ヒュー・ジャックマン | ジャン・バルジャン | X-MENシリーズ(ウルヴァリン) |
| ラッセル・クロウ | ジャベール警部 | グラディエーター |
| アン・ハサウェイ | ファンテーヌ | プラダを着た悪魔 |
| アマンダ・サイフリッド | コゼット(成人) | マンマ・ミーア!シリーズ |
| エディ・レッドメイン | マリウス・ポンメルシー | 博士と彼女のセオリー |
| サマンサ・バークス | エポニーヌ | レ・ミゼラブル25周年記念コンサート |
| ヘレナ・ボナム=カーター | テナルディエ夫人 | スウィーニー・トッド |
| サシャ・バロン・コーエン | テナルディエ | ボラット |
| アーロン・トヴェイト | アンジョルラス | ロック・オブ・エイジズ |
| コルム・ウィルキンソン | 司教(ミリエル) | 舞台版レ・ミゼラブル(ロンドン初演) |
ジャン・バルジャンを演じるヒュー・ジャックマンは、もともとミュージカル俳優としてキャリアをスタートさせた実力派です。アクション映画のイメージが強い彼ですが、歌唱・演技ともに高いレベルを誇る人物で、この作品でも堂々たるパフォーマンスを見せています。つまり、歌える俳優として最初からキャスティングされた、ということです。
参考リンク:キャスト情報・作品詳細(映画.com)
レ・ミゼラブル(2012) : 作品情報・キャスト・あらすじ・動画 - 映画.com
ファンテーヌ役のアン・ハサウェイは、映画史に残るほど徹底した役作りを行ったことで知られています。役柄の「死に近い外見」を再現するため、撮影前に約4.5キロを落とした後、わずか2週間でさらに約7キロ減量するという、合計で約11キロという過酷なダイエットを敢行しました。その2週間、摂取していた食事は1日に乾燥オートミールバー2本のみだったと後に告白しています。
ダイエットだけではありません。彼女は撮影のためにロングヘアを実際にばっさりと切り落とし、歌の特訓も並行して行いました。その結果、「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」を全力で歌い切るシーンはワンテイク・クローズアップで撮影され、スクリーンで見た観客に大きな衝撃を与えました。
これは使えそうです。
彼女がファンティーヌとして画面に登場する時間は、映画全体のうちわずか約15分程度にすぎません。それでも第85回アカデミー賞でアン・ハサウェイは助演女優賞を受賞しています。出演時間の短さと受賞の重さの対比は、いかに彼女のパフォーマンスが際立ったものであったかを示しています。
なお、アン・ハサウェイをファンテーヌ役に強く推薦したのは、主演のヒュー・ジャックマン自身だったことも明らかになっています。キャスト間の信頼関係が、この作品の完成度をさらに高めたといえます。
参考リンク:アン・ハサウェイの役作りと減量の詳細
アン・ハサウェイ、壮絶ダイエットの裏側明かす 死期近い『レミゼ』役 - シネマトゥデイ
エポニーヌ役は映画全体でも屈指の人気を誇るキャラクターで、劇中では「オン・マイ・オウン(On My Own)」を歌う切ない場面が特に有名です。このエポニーヌ役に最終的にキャスティングされたのは、イギリス出身のミュージカル俳優・サマンサ・バークスでした。
ところが、サマンサ・バークスが抜擢される前、エポニーヌ役にはポップスター・テイラー・スウィフトが決定したと報じられていました。テイラー・スウィフトが内定したと各メディアが報じた直後に、一転してサマンサ・バークスへの変更が発表されたのです。意外ですね。
サマンサ・バークスは、2010年のウエストエンドでのミュージカル舞台版「レ・ミゼラブル」でエポニーヌを演じていました。また2010年のレ・ミゼラブル25周年記念コンサートにも同役で出演しており、プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュからもその実力を強く認められていた経緯があります。
彼女の起用はハリウッドスター一色のキャストの中で唯一のミュージカル専門俳優枠でもあり、舞台仕込みの歌唱力と演技力によって、映画版エポニーヌは熱狂的なファンを生み出すことになりました。
参考リンク:エポニーヌ役の経緯とサマンサ・バークスのインタビュー
「エポニーヌ」役のサマンサ・バークス - ELLE JAPAN
多くの映画ファンが見落としがちなポイントのひとつが、司教(ミリエル)役を演じたコルム・ウィルキンソンの存在です。彼は1985年のロンドン初演ミュージカル「レ・ミゼラブル」でジャン・バルジャンを演じた「オリジナル・キャスト」の一人であり、伝説的なミュージカル俳優です。
つまり本作では、映画版でバルジャンを演じるヒュー・ジャックマンに「善の道を教える司教」として、かつての舞台版バルジャン役者が登場するという、ファンには鳥肌が立つような構成になっています。「バルジャンを更生させる司教がかつてのバルジャン役者」という入れ子構造は、演劇史の深みを知るファンへの最高の贈り物といえます。
舞台のオリジナルキャストが出演したのはコルム・ウィルキンソンだけではありません。1985年ロンドン初演でエポニーヌを演じたフランシス・ラッフェルも、映画版では売春婦の一人として出演しています。これもファンの間では有名な小ネタです。
映画版に舞台のレガシーを引き継ぐ形で2名のオリジナルキャストが出演しているという事実は、この作品がただの「名作の映画化」ではなく、ミュージカルの歴史を尊重した意欲作であることを示しています。
参考リンク:コルム・ウィルキンソンとオリジナルキャスト参加の詳細
ハリウッドの豪華俳優陣に加えオリジナル・キャストも参加が決定 - シネマトゥデイ
この映画でもっとも語り継がれる技術的特徴が、「全編ライブ録音(Live Singing)」です。通常のミュージカル映画では、撮影の前にスタジオで歌唱を録音しておき、撮影時には俳優がその音源に合わせて口パクで演技するというやり方が一般的です。製作コストや音質を安定させるための合理的な方法であり、業界の常識でした。
しかしトム・フーパー監督はこの常識を覆しました。本作では大量の水を使うオープニングシーンを除き、ほぼ全編にわたり俳優が撮影しながら実際に生歌を歌い、その音源をそのまま映画に使用しています。つまり、口パクなしの映画です。
撮影現場では俳優たちが耳に小型のワイヤレスイヤホンをつけ、セット外部で演奏されるピアノの伴奏を聞きながら歌いました。曲のテンポはあくまでも俳優の感情に合わせて自由に設定され、ピアノがそれに追従するという手法がとられました。収録されたボーカル音源に後からフルオーケストラの演奏が付け加えられ、最終的な楽曲が完成しています。
この手法の最大のメリットは、俳優の「今この瞬間」のリアルな感情が声に直接乗ることです。フーパー監督は「3ヶ月前にスタジオで録音した感情を撮影本番で思い出すことができるのか。それは難しい」と語っており、ヒュー・ジャックマンとのテスト撮影でこの方法の有効性を確信したとされています。
結論は革命的な選択です。アン・ハサウェイは「夢やぶれて」をワンテイクで歌い切ったと伝えられており、その生々しいエネルギーが画面から伝わるのはまさにこのライブ録音の賜物です。この技術革新により、本作はアカデミー賞音響録音賞も受賞しています。
参考リンク:全編ライブ録音の手法についての詳細解説
2013年に開催された第85回アカデミー賞では、本作は作品賞を含む7部門にノミネートされ、アン・ハサウェイの助演女優賞、音響録音賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の計3部門を受賞しました。受賞の中心となったのがキャストであることは言うまでもありません。
ジャベール警部を演じたラッセル・クロウは、『グラディエーター』でアカデミー主演男優賞を受賞したオスカー俳優です。歌唱経験も豊富で、実際に自身のバンド活動を持つほど音楽への造詣が深い人物です。ただし、「ミュージカル映画での歌唱」という点ではジャックマンやハサウェイと比較して評価が分かれ、ネット上では賛否両論の声がありました。厳しいところですね。
マリウス役のエディ・レッドメインは、本作の時点ではまだ大ブレイク前の俳優でした。その後『博士と彼女のセオリー』(2014年)でアカデミー主演男優賞を受賞し、さらに『ファンタスティック・ビースト』シリーズで世界規模のスターとなります。本作でのマリウスは「映画の意外な収穫」と当時の映画評論家たちに評されたほど印象的でした。
コゼット役のアマンダ・サイフリッドは、映画公開時点で既に『マンマ・ミーア!』(2008年)で実績のあるミュージカル映画経験者でした。コゼット役は歌唱の難易度が高く、高音域での透明感ある歌声が求められましたが、彼女はそれを見事に体現しています。
テナルディエ夫妻を演じたヘレナ・ボナム=カーターとサシャ・バロン・コーエンのコンビは、コミカルで不気味な味を持つ「悪役ペア」として絶妙のバランスを見せました。ヘレナ・ボナム=カーターは同じトム・フーパー監督の人脈で選ばれたとも言われており、彼女は鬼才ティム・バートン監督との長い交際でも知られる個性派俳優です。
参考リンク:第85回アカデミー賞受賞・ノミネートの詳細