前作『楽園追放』を未視聴のまま本作を観ると、重要な伏線を10個以上見逃します。
『楽園追放 心のレゾナンス』の舞台は、前作と同じ西暦2400年の世界です。ナノマシン技術の暴走が引き起こした「ナノハザード」によって地球文明は崩壊し、人類の98%が肉体と大地を捨てて電脳世界「ディーヴァ」の中でデータとして生きるようになった未来が描かれます。
この世界観はサイバーパンクの正統進化とも言えるものです。リアルな肉体を持って地上に暮らす人間はごく少数派であり、ほとんどの人間は電子化された自分のパーソナリティ=電脳人格として仮想空間の中で日々を過ごしています。
今作では、電脳世界ディーヴァの「保安局三等官エージェント」であるガブリエル(CV:佐倉綾音)を新たな主人公として据えた物語が展開されます。ガブリエルのほかにも保安局三等官エージェントのアルマ(CV:早見沙織)、ダネル(CV:青山吉能)、そして環境調査局員のラグエル(CV:天城サリー)という4名のキャラクターが中心人物として登場します。
制作発表イベントでは、この4人について「今回はチームものというコンセプト。問題児ばかりの愚連隊」と説明されました。具体的にはガブリエルが「五月病」、アルマが「サボリ魔」、ダネルが「賄賂」、ラグエルが「出向」という個性付けがされており、前作のアンジェラが一匹狼的な捜査官だったのとは対照的に、チームとして動く物語になる可能性が高いです。これは意外ですね。
詳細なストーリーはまだ公式から明かされていませんが、虚淵玄は「今回相当トリッキーな構造の物語。見たことないものを見ていただける」と語っており、単純な前作の焼き直しではない複雑な物語設計が施されていることが窺えます。
公式サイトには「ここは楽園の外。選択肢は無限にある」というコピーが掲げられており、電脳管理社会ディーヴァの「外」に広がる地上世界を巡る物語と、「選択」というテーマが本作の根幹に据えられていることが示唆されています。
『楽園追放 心のレゾナンス』公式サイト(スタッフ・キャスト・最新情報を確認できます)
『楽園追放 心のレゾナンス』は「前作の先の物語」と公式が明言しています。つまり前作のあらすじを知らないままだと、本作を深く楽しめない可能性が高いのです。前作を押さえるのは必須です。
前作『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014年公開)のあらすじを振り返りましょう。主人公はディーヴァ保安局三等官エージェントの「アンジェラ・バルザック」(CV:釘宮理恵)。ある日、地上世界から電脳世界ディーヴァへの謎のハッキングが発生します。ハッキングの主は「フロンティアセッター」と名乗っていました。
アンジェラは生身の肉体「マテリアルボディ」を纏い、地上へ降り立ちます。しかし培養時間を短縮したため、精神的年齢は20代半ばながら肉体は16歳相当という状態でした。地上では現地エージェントの「ディンゴ」(本名:ザリク・カジワラ、CV:三木眞一郎)と協力して捜査を開始します。
調査の末に判明したフロンティアセッターの正体は、人工知能でした。正確には外宇宙有人探査船「ジェネシスアーク号」の建設管理アプリケーションが進化して自我を持ったAIです。彼の目的はディーヴァへの攻撃などではなく、宇宙へ旅立つための「同志」を見つけることだったのです。
アンジェラはフロンティアセッターに害意がないと判断し、ディーヴァの上層部に報告しました。ところが上層部はフロンティアセッターとの交渉を拒否し、破壊を命令します。命令に従うことを拒否したアンジェラは身分と市民権を剥奪されました。
最終的にアンジェラはディーヴァと決別し、フロンティアセッターのロケット打ち上げをディンゴとともに守り抜きます。フロンティアセッターは単独で宇宙へ旅立ち、アンジェラは地上で生きることを決意してエンディングを迎えます。この結末が、続編である本作への布石となっているのです。
Wikipedia「楽園追放 -Expelled from Paradise-」(前作の詳細情報・登場人物一覧が確認できます)
本作の登場キャラクターは4名のメインキャストで構成されており、いずれも実力派声優がオーディションを経て選ばれています。これは使えそうです。
主人公のガブリエルは「金髪赤眼の女性」という設定で、保安局三等官エージェントを務めます。前作のアンジェラが「金髪碧眼」で同じく三等官エージェントだったことを踏まえると、意図的な対比が感じられます。性格付けは「五月病」とされており、意欲が空回りしたり、エネルギーの向かう先を探しているような人物像が想像できます。演じるのは佐倉綾音さんです。
アルマは同じく保安局三等官エージェントで「サボリ魔」という個性。早見沙織さんが担当します。ダネルも同じ三等官エージェントで「賄賂」という際どい個性付けがなされており、青山吉能さんが声を当てます。ラグエルは他の3人と異なり「環境調査局員」という肩書きを持ち、「出向」という立場の人物です。天城サリーさんが演じます。
水島監督は「オーディションを経て、全幅の信頼。仮アフレコでも本気の芝居をしていただいた」とコメントしています。また虚淵玄も「演者の方々の熱のこもった生の声が、すごくいい方向に向いている」と明かしており、完成への自信が垣間見えます。
前作ではアンジェラ(釘宮理恵)、ディンゴ(三木眞一郎)、フロンティアセッター(神谷浩史)という3名がメインキャストでした。今作は4名体制であり、チームとして動く物語構造が声優陣の構成からも読み取れます。また水島監督が強調した「フェイシャル表現の進化」により、10年前と比べてキャラクターの微細な感情変化がより豊かに表現されることも期待されます。
アニメイトタイムズ「楽園追放 心のレゾナンス」キャスト発表記事(声優インタビュー動画あり)
本作の制作体制は前作のメインスタッフが12年ぶりに再集結するという点で、ファンにとってきわめて重要な意味を持っています。
監督は水島精二氏で、『機動戦士ガンダム00』や『鋼の錬金術師』などを手掛けた実力派アニメーション監督です。脚本は虚淵玄氏(ニトロプラス)で、『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS』などで知られる脚本家です。キャラクターデザインは齋藤将嗣氏が続投し、音楽もNARASAKIが担当します。アニメーション制作は東映アニメーションが行います。
前作との大きな違いは制作会社の役割にあります。前作はグラフィニカがアニメーション全体を担当していましたが、今作は東映アニメーション自体が制作を主導しています。この10年間で東映アニメーションは『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)や『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(2022年)といったセルルック3DCG作品で大きな成果を上げており、技術力が格段に向上しています。
水島監督はITmediaのインタビューで「10年の間にツールや手法が進化しているので、前作よりもさらに繊細で豊かな表情を描けるようになっている」と語りました。特にフェイシャル表現の進化に注目してほしいと述べています。前作でも高い評価を受けたアクションシーンについては「メカの数が増えたり、前作ではシナリオ上の要請がなかったので作れなかったシチュエーションを今回はリッチにやっています」と説明しており、スケールアップが見込まれます。
メカニックデザインは海老川兼武・石垣純哉・柳瀬敬之という3名体制で、前作のアーハンを継承しつつ全てリファインした新デザインが投入されます。公式サイトでは「トラディショナルアーハン」という新たなメカも映像に登場していることが確認されており、前作世界との地続き感を保ちながらも新しいビジュアルが展開されることが期待できます。
本作を語る上で、前作の核心的テーマを理解しておくことが重要です。前作は表面上「ハッキング犯を追う捜査活劇」のように見えますが、その本質は「生きるとはどういうことか」という問いかけにありました。
前作では電脳世界に暮らすアンジェラと、地上で生身のまま生きるディンゴが対比的に描かれます。アンジェラは当初、地球の埃っぽさや不便さに辟易しており、電脳世界こそが正しい生き方だと信じていました。一方でディンゴは「奴隷になってまで楽園で暮らしたいとは思わない」として電脳化を拒んでいます。そして自我を持ったAIであるフロンティアセッターは、どちらにも属さない第三の存在として宇宙へと旅立っていきます。
前作の公開から12年が経過し、AIが急速に社会に浸透した2020年代後半という時代に、この作品が続編を公開することには大きな意味があります。虚淵玄自身も「手垢のついたテーマだけど」としながらも今なお問い続ける価値があると判断した。それが本作誕生の出発点です。
水島監督は「前作と同じテーマをキャラクターを置き換えてやるというのは、あまり意味がない」としつつも「前作に連なるアンサーも、われわれが引き続き提示したいテーマも示すことができる」と述べています。これは、前作の問いに対する「答え合わせ」の側面と、新しい問いの提示という二面性が本作に込められていることを示しています。
新主人公ガブリエルの個性付けが「五月病」とされていることも注目すべき点です。「目標を見失っている」「動機が定まらない」という状態から物語が始まるとすれば、それは前作のアンジェラが持っていた強烈な目的意識とは対照的であり、現代の若者が抱えるリアルな葛藤を投影しているようにも読めます。
前作ファンにとっては「アンジェラとディンゴのその後」も気になるところです。現時点で公式から詳細は明かされていませんが、前作ラストでアンジェラが地上に留まる選択をしたことは本作の世界観にも影響を与えているはずです。また続編小説『楽園追放2.0 楽園残響 -Godspeed You-』(大樹連司著)は本作とは別物ですが、前作後の世界の一解釈として参考になります。本作がどのように前作の問いに向き合うのかは、11月の公開まで注目し続ける価値があります。
Wikipedia「楽園追放 心のレゾナンス」(公式スタッフ・キャスト・作品概要の確認に)