コクリコ坂から歌・手嶌葵が紡ぐさよならの夏の魅力

ジブリ映画『コクリコ坂から』の主題歌「さよならの夏」を歌う手嶌葵。その曲の成り立ちや歌声の秘密、知られざる誕生エピソードを徹底解説。あなたはこの歌の本当の"原点"を知っていますか?

コクリコ坂からの歌・手嶌葵「さよならの夏」の魅力と秘密

手嶌葵は「さよならの夏」をオリジナルで書き下ろしていません。


🎵 この記事でわかること
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映画と主題歌の関係

2011年公開のジブリ映画『コクリコ坂から』の舞台・あらすじと、主題歌「さよならの夏」がどのように映画と結びついているか解説します。

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手嶌葵という歌手の素顔

デビューのきっかけから独自のウィスパーボイスまで、手嶌葵の歌手としての魅力を深掘りします。

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原曲の秘密と歌詞の深み

実は1976年の森山良子の曲が原点。歌詞に込められたテーマや、2番だけが新しく書かれた理由まで、知られざる事実を紹介します。


コクリコ坂からの主題歌「さよならの夏」と手嶌葵の出会い


2011年7月16日に公開されたスタジオジブリ映画『コクリコ坂から』は、宮崎吾朗が監督を務めた青春ラブストーリーです。舞台は1963年(昭和38年)の横浜。翌年の東京オリンピック開催を目前に控え、日本全体が高度経済成長に向けて突き進んでいた時代を背景に、16歳の少女・松崎海(メル)と17歳の少年・風間俊の恋愛と青春が丁寧に描かれています。


その映画に彩りを添える主題歌が「さよならの夏 〜コクリコ坂から〜」です。歌うのは手嶌葵(てしまあおい)。彼女は2006年に公開されたジブリ映画『ゲド戦記』の挿入歌「テルーの唄」でメジャーデビューを果たし、デビュー曲がオリコン初登場5位・出荷枚数約30万枚・楽曲ダウンロード数65万件という当時のジブリシリーズ最大の記録を叩き出した実力派シンガーです。


つまり意外ですね。


2011年の『コクリコ坂から』は、手嶌葵にとってジブリとの2度目のタッグとなります。「テルーの唄」でジブリと手嶌葵のゴールデンコンビが確立され、今度は主題歌という大役を担う形になりました。


主題歌シングル「さよならの夏 〜コクリコ坂から〜」は映画公開に先駆けて2011年6月1日にヤマハミュージックコミュニケーションズからリリースされています。シングルには主題歌のほか、映画の挿入歌「朝ごはんの歌」「初恋の頃」も収録されており、映画の世界観を音楽面でしっかりと補完する1枚となっています。


スタジオジブリ公式サイト『コクリコ坂から』作品ページ(スタッフ・スタジオ情報の確認に)


コクリコ坂からの歌の原点・「さよならの夏」は35年前の曲だった

多くの人が、「さよならの夏」は2011年の映画のために書き下ろされた曲だと思い込んでいます。しかし実は違います。これが知られざる重要な事実です。


「さよならの夏」はもともと1976年(昭和51年)に、歌手・森山良子が歌った楽曲が原曲です。作詞は万里村ゆき子、作曲は坂田晃一。当時、よみうりテレビで放送されたメロドラマ「さよならの夏」の主題歌として制作されたものでした。つまり映画公開の35年前に作られた曲ということになります。


手嶌葵版でカバーされるにあたり、宮崎駿自らがこの「さよならの夏」を宮崎吾朗監督に推薦したと言われています。父から息子へと受け継がれたこの選曲のエピソードも、この映画の温かみをよく表していると感じます。


さらに驚くべきことがあります。原曲(森山良子版)には1番と3番しか収録されておらず、2番は存在しませんでした。映画の制作にあたり、2番の歌詞は作詞家の万里村ゆき子が新たに書き下ろしたのです。つまり手嶌葵バージョンの「さよならの夏」は、1番・3番が1976年のオリジナルで、2番だけが2011年に新たに加えられたという、少し特殊な構成になっています。これが基本です。


また、映画の主人公の母親の名前が「良子(りょうこ)」と設定されているのも、一説には森山良子へのリスペクトが込められているとも語られています。偶然ではなさそうですね。


Wikipedia「さよならの夏 〜コクリコ坂から〜」(楽曲の詳細情報の参照に)


コクリコ坂からの歌が引き立つ理由・手嶌葵のウィスパーボイスとは

「さよならの夏」が映画の世界観に溶け込んでいる理由のひとつは、手嶌葵の唯一無二の歌声にあります。彼女の歌唱スタイルの最大の特徴は「ウィスパーボイス」と呼ばれるものです。


ウィスパーボイスとは、囁くような息漏れ声のことです。声帯を強く振動させずに、息を多く含ませながら柔らかく発声するスタイルで、「切なさ」「儚さ」「温かみ」を同時に表現できます。手嶌葵の場合、低音でも高音でもほぼ一貫してこのウィスパーボイスを使って歌い通す点が非常に珍しいとされています。


宮崎吾郎監督が彼女の歌声を最初に「テルーの唄」で起用した際、原作者のアーシュラ・K・ル=グウィン(ゲド戦記の原作者)もその歌声を絶賛し、「吹き替えになるときにもオリジナルのままこの歌を収録してほしい」とコメントを残しています。日本のアニメとは無関係な海外原作者にまで認められた歌声ということです。


手嶌葵の声の出し方には、口の中の空間を広くとり、声を息に乗せるように柔らかく前に押し出す技術が使われています。声帯を鳴らす割合を抑え、息の量を増やすことで、あの透明感のある「妖精のような」声質が生まれます。


この歌唱スタイルは、1963年の横浜という少し遠い昭和の記憶を呼び起こすような映画の雰囲気ととても相性が良いのです。力強く前に出る歌声ではなく、聴く側の心の中に静かに染み込んでくる歌い方は、映画のヒロイン・メルの内面的な強さと繊細さを音楽的に体現しているとも言えます。つまりキャスティングの妙ですね。


コクリコ坂からの歌集アルバム・全13曲の構成と聴きどころ

映画公開と同年の2011年7月9日には、歌集アルバム「スタジオジブリ・プロデュース『コクリコ坂から歌集』」がリリースされています。全13曲・51分5秒という充実した内容で、映画の主題歌・挿入歌をはじめ、映画のために書き下ろされたオリジナル曲も収録されています。


このアルバムに収録されている曲の多くは、作詞に宮崎吾朗監督と谷山浩子が関わり、作曲は谷山浩子、編曲と音楽プロデュースを武部聡志が担当しています。武部聡志はポップスの世界で長年活躍する音楽プロデューサーで、柔らかく映画的な響きのサウンドを手嶌葵の歌声に合わせて丁寧に作り上げています。


アルバムの主な収録曲は以下のとおりです。


































トラック 曲名 備考
1 さよならの夏〜コクリコ坂から〜 映画主題歌(5分22秒)
2 エスケープ 武部聡志作曲のオリジナル曲
3 朝ごはんの歌 映画挿入歌(2分56秒)
4 谷山浩子作曲のオリジナル曲
5 春の風 宮崎吾朗・谷山浩子作詞の曲


主題歌「さよならの夏」は5分22秒と比較的長めで、歌詞の世界をじっくりと届ける構成になっています。これは聴きどころですね。


アルバムの中でも「朝ごはんの歌」は映画のオープニング近くで流れる挿入歌で、朝の家事をこなすメルの日常の温かさを表現しています。一方の「旗」「春の風」などのオリジナル曲は、谷山浩子のメロディセンスと手嶌葵の声が見事に噛み合い、映画の雰囲気そのままの世界観を作り出しています。


映画をより深く楽しむために、映画鑑賞の前後にこのアルバムを聴くことをすすめます。映画の情景が頭の中に浮かんでくる体験ができます。SpotifyやApple Musicなどのサブスクリプションサービスでも「コクリコ坂から歌集」として配信されており、手軽にフル視聴できます。これは使えそうです。


コクリコ坂からの歌「さよならの夏」の歌詞に込めた昭和と現代へのメッセージ

「さよならの夏」の歌詞は、一見シンプルに思えますが、映画のテーマと深くリンクしています。冒頭の「光る海にかすむ船は、さよならの汽笛のこします」という一節は、横浜の港という具体的な風景を描きながら、別れや旅立ち、見送ることの切なさを凝縮して表現しています。


映画の主人公・メルは、朝鮮戦争で命を落とした父への思いから、毎朝コクリコ荘の窓から信号旗を掲げ続けています。「UW」という信号旗の意味は「安全な航海を」。それは亡き父への問いかけであり、見えない相手への愛の表現です。この行為と「さよならの夏」の歌詞が重なるとき、楽曲の意味はより深く感じられます。


歌詞の中の「わたしの愛、それはメロディー、たかくひくく歌うの」という部分には、音楽で感情を伝えることの象徴的な意味が込められています。言葉にならない気持ちを歌として表現する、というのは手嶌葵自身の歌手としての姿勢とも重なる部分です。


また、作詞家の万里村ゆき子は映画制作陣から脚本を受け取ったとき、「この曲は鎮魂歌のように思えた」と語っています。映画の公開は東日本大震災の4ヶ月後(2011年7月)という時期とも重なり、「さよならの夏」はただの青春ラブソングを超えた、時代への言葉として多くの人の心に響いたとも考えられます。結論は「時代と一体になった曲」ということです。


「さよならの夏」を深く味わうには、映画のストーリーを知りながら歌詞を読むことが大切です。歌詞全文はutatenや歌ネットなどの歌詞サービスで無料確認できます。映画の場面と照らし合わせながら読むと、また違った感動があります。


歌ネット「さよならの夏 〜コクリコ坂から〜」歌詞ページ(歌詞の全文確認に)


コクリコ坂からの歌・手嶌葵だからこそ生まれた独自の解釈と後世への影響

「さよならの夏」は森山良子の原曲が1976年にあった一方、手嶌葵バージョンが2011年にカバーされたことで、全く別の命を吹き込まれた楽曲でもあります。この2つのバージョンを聴き比べると、同じ歌詞・同じメロディでありながら、受け取る印象が大きく異なることに気づきます。


森山良子版は、大人の女性が人生の経験を踏まえて歌う、しっとりと落ち着いた情感があります。対して手嶌葵版は、ティーンエイジャーの主人公が夏の終わりに感じる揺れ動く感情を、透明感のある声で表現しています。どちらが優れているというわけではなく、同じ詞に2つの人生が宿っているとも言えます。


手嶌葵はこの曲以降も、「明日への手紙」(フジテレビ系月9ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」主題歌、2016年)や「ただいま」(TBS系日曜劇場「天国と地獄〜サイコな2人〜」主題歌、2021年)など、ドラマや映画と深く結びついた主題歌を歌い続けています。その都度、楽曲の世界観に寄り添うウィスパーボイスが高く評価されており、日本の映像文化と音楽の架け橋としての役割を担い続けています。


「さよならの夏」をきっかけに手嶌葵の音楽をもっと知りたくなった場合は、2021年にリリースされたベストアルバム「Simple is best」から入るのがおすすめです。「テルーの唄」「さよならの夏」「明日への手紙」「ただいま」など、歌手デビューから2021年までの代表曲が1枚にまとめられており、手嶌葵の歌手としての軌跡をたどるのに最適な1枚です。


ビクターエンタテインメント 手嶌葵プロフィールページ(ディスコグラフィーと最新情報の確認に)




フィルム・コミック コクリコ坂から 2 (アニメージュコミックス)