この映画、主演は嵐の櫻井翔だけじゃないと知ると損します。
映画『ハチミツとクローバー』は、羽海野チカによる同名漫画を原作とした2006年7月22日公開の実写映画です。配給はアスミック・エース、監督は「ライフ・カード」などのCMを手掛けた人気CMディレクター・高田雅博が務めました。上映時間は103分で、夏休みシーズンに全国ロードショーとして公開されました。
原作漫画は2000年から2006年にかけて宝島社・集英社から出版され、2008年3月時点で累計発行部数850万部を突破した大ヒット作品です。宝島社の「このマンガがすごい!」オンナ編では2006年版・2007年版と2年連続1位を獲得しています。これはちょうど東京ドームのグラウンド面積に換算すると約600面分に相当する読者を動員した計算になるほど、国内での人気は絶大でした。
「ハチクロ」という愛称で親しまれているこの作品。タイトルの「ハチミツ」はスピッツのアルバム名から、「クローバー」はスガシカオのアルバム名から採られています。つまりタイトルは音楽アルバムが由来です。
舞台となっている浜田山美術大学のモデルは武蔵野美術大学で、原作の建物描写も精巧に再現されています。映画では茨城県つくば市でもロケが行われており、スクリーンに映る美術大学の空気感はとてもリアルです。
物語の核となるのは、5人の美大生がそれぞれに抱える「全員片思い」の恋模様と青春の葛藤です。主要登場人物は全員誰かに片思いをしているというユニークな設定が、多くの読者・視聴者の共感を呼びました。それが基本です。
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主人公・竹本祐太を演じたのは、人気グループ「嵐」メンバーの櫻井翔です。この映画が初の映画出演でした。これは意外ですね。竹本は手先は器用だが人間関係に不器用な美大生で、自分の才能のなさに悩みながら花本はぐみに一目惚れするという純朴なキャラクターです。
撮影当時20代前半だった櫻井翔は、竹本の「何もできない自分」への焦りや不安をリアルに体現しました。映画の見せ場のひとつである「ひたすら自転車で日本を旅するシーン」は、視覚的なインパクトと彼の青春の閉塞感を上手く表現したシーンとして高く評価されています。その後、フジテレビ系ドラマ『謎解きはディナーのあとで』(2011年)などでも主演を務め、司会・キャスターとしても幅広く活躍しています。
花本はぐみを演じた蒼井優は、この作品においてもっとも原作キャラクターへの「なりきり度」が高かったと多くのファンから評価されています。結論は蒼井優の演技力が作品を支えたといえます。はぐみは天才的な芸術センスを持ちながら、引っ込み思案で内向的な少女です。台詞が少なく、表情と仕草だけで感情を表現しなければならない難役ですが、蒼井優はそれを繊細かつ的確にこなしています。
蒼井優はこの映画の前年2005年に公開された『フラガール』(2006年)でも主演を務めており、若手女優として飛ぶ鳥を落とす勢いのキャリアを歩んでいました。この映画での彼女のロングヘア姿は、後年とはまた異なる魅力があります。
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森田忍を演じた伊勢谷友介は、本作においてファッションモデル出身らしいビジュアルと、天才型キャラクターの狂気じみた魅力を見事に体現しました。森田忍は「天才すぎて変人」という設定のキャラクターで、突然姿を消しては大金を持って帰ってくる謎多き人物です。
伊勢谷友介はモデルとしてキャリアをスタートし、映画俳優としても急速に頭角を現していた時期でした。後に映画『あしたのジョー』(2011年)での力石徹役やNHK大河ドラマ『花燃ゆ』(2015年)での吉田松陰役など、個性的な役を次々と演じています。
真山巧役の加瀬亮は、長身・メガネ・赤みがかったヘアというトレードマークを持ちながら、片思いに苦悩する繊細なキャラクターを好演しました。真山は建築デザイン事務所の原田理花に一途に恋をしながらも報われず、同時に山田あゆみの気持ちに気づきながら曖昧な態度を取り続けるという複雑な人物です。
加瀬亮はこの映画公開の前後から映画出演が急増しており、同年には是枝裕和監督の『花よりもなほ』にも出演しています。その後TBSドラマ『SPEC』(2010年)での壮絶なアクション演技でも多くのファンを獲得しています。
花本修司を演じた堺雅人は、ブログで「当時はまだ無名に近かった」と評されるほど、この映画はそのキャリアの前半にあたる作品です。これは使えそうです。花本修司は浜田山美術大学の美術史教授で、はぐみのいとこにあたる温かみのある人物。学生を献身的に支えながら、親友の妻・原田理花を密かに想い続けるという役柄です。
堺雅人はその後、2013年放送のTBSドラマ『半沢直樹』が空前の大ヒットを記録し、最終話で視聴率42.2%(関東地区)という2000年代以降では歴史的な数字を叩き出しています。42.2%というのは、日本人の約4割がそのドラマを見ていた計算になります。今となっては大スターですが、映画公開当時の堺雅人は「一部の映画ファンには知られている実力派俳優」という位置づけでした。
原田理花を演じた西田尚美は、モデル出身で雑誌「non-no」では特に人気の高いモデルでした。原田理花は夫を突然の事故で亡くし、後遺症で足に障害を抱えながらも夫の残したデザイン事務所を独りで切り盛りするという難しい役どころ。西田尚美は儚げでありながら芯の強い女性像を的確に演じています。
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映画版『ハチミツとクローバー』をより深く楽しむうえで見逃せないのが、音楽との連動です。この映画の主題歌はスピッツが映画のために書き下ろした「魔法のコトバ」で、エンディングにはスガシカオの楽曲が使われています。これはまさに「タイトルの由来となったアーティスト2組が映画音楽も担った」という、作品全体の統一感を生んでいます。音楽も作品の一部です。
スピッツの「魔法のコトバ」は、当時大きな話題を呼び、シングルとしても高い評価を受けました。草野マサムネの詞に込められた「二人だけにわかる魔法のコトバ」というテーマが、映画の「片思い」という本質ともリンクしています。
一方、2008年にフジテレビで放送された連続テレビドラマ版は、映画版とはキャストが全面的に刷新されています。
| 役名 | 映画版キャスト | ドラマ版キャスト |
|------|-----------|------------|
| 竹本祐太 | 櫻井翔 | 生田斗真 |
| 花本はぐみ | 蒼井優 | 成海璃子 |
| 森田忍 | 伊勢谷友介 | 成宮寛貴 |
| 真山巧 | 加瀬亮 | 向井理 |
| 山田あゆみ | 関めぐみ | 原田夏希 |
| 花本修司 | 堺雅人 | 村上淳 |
| 原田理花 | 西田尚美 | 瀬戸朝香 |
ドラマ版は映画版と同様に豪華なキャスト構成ですが、視聴率的には苦戦を強いられました。これに対して映画版は夏休みという公開時期も後押しし、原作ファンや一般観客を広く取り込む結果を出しています。
さらに特筆すべきは、2008年に台湾でも同作品がドラマ化されている点です。台湾版では日本人俳優の伊藤千晃(AAAメンバー)がヒロイン・はぐみ役として抜擢されるという異例のキャスティングが話題になりました。伊藤千晃自身も台湾版での自分の吹き替え作業で苦労したとインタビューで明かしています。
映画版の魅力は「ブレイク前の実力派俳優たちが一堂に会した奇跡の作品」という点に尽きます。後年の活躍から逆算すると、映画公開当時のキャスト全員が今ほど有名ではなかったことに気づきます。つまり「将来の大スターたちが集まったキャスティング」だったわけです。
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映画『ハチミツとクローバー』が公開から約20年経った現在も語り継がれている最大の理由は、「登場するキャスト全員がその後の日本映画・ドラマ界を牽引する存在になった」という点です。これが最大のポイントです。
蒼井優はその後も映画・舞台・ドラマで数多くの賞を受賞。堺雅人は『半沢直樹』で日本中に知られる大俳優となり、加瀬亮・西田尚美もそれぞれ国際的な映画から地上波ドラマまで幅広く活躍しています。
映画を「あの頃」の目線ではなく、「キャストのキャリアの出発点として見直す」という楽しみ方ができるのが、この映画の大きな特徴です。たとえば堺雅人のセリフまわしや微妙な表情の作り方に、後の「半沢直樹」への片鱗を見つけることができます。これは他にない体験です。
また、美大生の青春という設定は、時代が変わっても普遍的な共感を呼びます。「好きな人に気持ちを伝えられない」「自分の才能の限界に気づいてしまう瞬間」「友人が自分より先に成長していく焦り」は、20代の人間が普遍的に抱える感情です。特定の時代に依存しない物語構造が、長く愛され続ける理由のひとつといえます。
映画の今後の視聴方法としては、Prime Video(プライム・ビデオ)やU-NEXTなどの動画配信サービスでも視聴可能です。原作漫画(全10巻)と合わせて読むことで、映画では描かれなかったエピソードや人物描写の深みをさらに楽しむことができます。原作は必読です。
2006年公開の映画としては、これほど多くの「のちの大俳優」が揃った作品は非常に珍しいといえます。青春の甘酸っぱさとキャスト一人ひとりの演技力、そしてスピッツの主題歌が絶妙に融合したこの映画は、ただの原作ファン向けの実写化を超えた、独立した映画作品としての完成度を持っています。まだ見ていない方は、ぜひ一度視聴してみてください。
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