配信サービスで美味しんぼを見ようとしたあなた、実は136話中15話がすでに「見られない状態」で、その中にギャラクシー賞受賞作も含まれています。
アニメ「美味しんぼ」は1988年10月17日から1992年3月7日まで、テレビ朝日系で放送された全136話の長寿グルメアニメです。原作は雁屋哲(作)・花咲アキラ(画)で、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に連載中の同名漫画が原作となっています。
欠番回とは何か、という点からまず整理しましょう。放送当時は全136話すべてが通常どおり放映されていましたが、2000年代以降の再放送やCSテレ朝チャンネルでの放映、さらにAmazonプライムビデオ・U-NEXT・Huluなどの配信サービスでは、15話分が「配信対象外」として扱われるようになりました。つまり配信版は全121話構成となっており、話数がところどころ「飛んでいる」状態です。
これがいわゆる「欠番回」です。
以下が欠番となっている全15話の一覧です。
| 話数(放送時) | サブタイトル | 主な欠番理由 |
|---|---|---|
| 第15話 | 日本風カレー | 狂牛病(BSE)問題・牛骨髄使用 |
| 第20話 | 食卓の広がり | 偏食者への差別的発言・ブロイラー批判 |
| 第23話 | 牛鍋の味 | すき焼き・しゃぶしゃぶ全否定・人種差別発言 |
| 第25話 | 舌の記憶 | ブロイラー製造工程の映像・「ボケ」表現 |
| 第26話 | 食べない理由 | SARS問題(ハクビシン)・化学調味料批判 |
| 第27話 | 激闘鯨合戦(前編) | 捕鯨問題・反捕鯨団体への過激表現 |
| 第28話 | 激闘鯨合戦(後編) | 同上 |
| 第36話 | スープと麺 | 化学調味料・食品添加物への批判 |
| 第40話 | 真夏の氷 | ミネラルウォーター批判・水道水批判 |
| 第42話 | 大豆とにがり | 豆腐製造工程・食品添加物批判 |
| 第51話 | レモンと健康 | 輸入レモンへの防腐剤批判(発がん性言及) |
| 第54話 | 江戸ッ子雑煮 | カマボコメーカー批判・添加物問題 |
| 第55話 | しょう油の神秘 | 大手醤油メーカー批判・化学調味料問題 |
| 第95話 | 及第ガユ | 覚せい剤シーン・激しい点滅映像 |
| 第123話 | 究極vs至高 対決!! スパゲッティ | チェルノブイリ原発事故・放射能汚染言及 |
20〜30話台に欠番が集中しており、この帯だけで見ると放送済みエピソードの約半数が欠番という状況です。いびつな話数飛びが起きているのには、こういった背景があります。
注目すべきは、欠番の理由が一律ではないという点です。食品会社・メーカーへの批判が原因のケース、社会問題の変化(狂牛病・SARSなど感染症)で後から問題になったケース、そして政治的・国際的にデリケートな問題(捕鯨・原発)を扱ったケースと、大きく3種類に分かれています。
欠番理由は「問題作だから」の一言では片付けられません。
参考リンク(欠番一覧・各回内容の詳細解説あり)。
アニメ「美味しんぼ」で再放送・配信されない欠番扱いの話数まとめとその理由 – 経験値
欠番回がなぜここまで多くなったのか。その理由を大きく3つの切り口で掘り下げていきます。
① 食品・食材への過激な批判
欠番の中でもっとも多いのが、食品添加物・化学調味料・食品メーカーへの批判を含む回です。第36話「スープと麺」では冷やし中華を題材に、化学合成の酢・合成着色料・農薬まみれの具材を徹底的に批判。第54話「江戸ッ子雑煮」ではカマボコメーカーを実在企業名を1文字変えただけの名前で登場させて批判する場面もありました。「紀文」を「久分」にするなど、あまりにもギリギリな表現が問題になったと言われています。
これは食品業界に対するネガティブキャンペーンとなりかねず、スポンサーや関係企業から問題視された可能性が高いとされています。
② 時代とともに問題化した社会事件との絡み
第15話「日本風カレー」は放送当時(1988年)には問題がなかったものの、2001年に国内で狂牛病(BSE)が発覚したことで、牛の骨髄を使用する調理シーンが「誤解を与える」と判断され欠番になりました。放送から10年以上が経過して欠番になったという、後発的な事例です。
第26話「食べない理由」は、仏跳牆(ファッチューチョン)という中国料理が登場する回ですが、その食材であるハクビシンが2003年のSARS流行の際に感染経路の媒体として問題になり、放送自粛となりました。
このように、放送時点では問題なくても、後の社会情勢の変化によって欠番に追い込まれるケースが複数存在しています。
③ 国際的・政治的にデリケートなテーマ
最も有名な欠番理由が、第27・28話「激闘鯨合戦」の捕鯨問題です。日本の捕鯨文化を強く擁護し、反捕鯨団体を「金目当て」と示唆する表現、さらに反捕鯨派のアメリカ人キャラクターに鯨を食べさせるシーンなど、国際的配慮に欠けると見られかねない内容が含まれています。
第123話「究極vs至高 対決!! スパゲッティ」に関しては、チェルノブイリ原発事故(1986年)の影響でヨーロッパ産の農作物が放射能汚染されているという内容が盛り込まれており、こちらは2011年の東日本大震災・福島原発事故以降の放射能問題に対する社会的センシティビティからも、復活が難しい回とされています。
つまり、欠番になる理由は「食品・メーカー批判」「感染症・社会問題」「政治・国際問題」の三層構造になっているということですね。
欠番=「問題だから封印された劣ったエピソード」というイメージを持っている方も多いでしょう。しかしこれは大きな誤解です。
実は欠番回には、シリーズ中でも特に評価の高いエピソードが集中しています。
まず最も代表的な例が、第27・28話「激闘鯨合戦」です。この回は、放送当時に放送批評懇談会が主催する「第27回ギャラクシー賞」テレビ部門の選奨を受賞しています。ギャラクシー賞とは、日本の放送文化の向上に寄与した優れた番組・制作者を顕彰する権威ある賞です。つまり、業界内で「質が高い」と公式に評価された回が、今は見られない状態になっているわけです。
次に第95話「及第ガユ」。この回は、演出家・寺東克己氏による「寺東演出」と呼ばれる独特の映像表現が際立っており、受験を前にした息子と父親の関係修復を描いた感動的な物語としてファンの間で高い評価を得ています。欠番の理由は覚せい剤シーンと画面の激しい点滅ですが、それを差し引いても見る価値のある内容とされています。
第123話「究極vs至高 対決!! スパゲッティ」も同様です。山岡と栗田の心理描写をエレベーターの開閉ボタンだけで表現したラストシーンは、「アニメ美味しんぼ最高の演出」と評するファンが多く存在しています。
さらに、欠番回にはシリーズ全体のストーリー上で重要なサブキャラクターの初登場回も含まれています。
- 第42話「大豆とにがり」:ブラックさん初登場
- 第51話「レモンと健康」:写真家・荒川と田畑の出会い(アニメ最終回で結婚する2人)
- 第55話「しょう油の神秘」:三谷(花村の恋人)初登場
これらを見ていないと、後の展開で「この人は誰だっけ?」「なぜこの2人が結婚しているの?」という状況になりかねません。欠番を知らずに配信版だけを見ると、物語の文脈が大きく欠落してしまうリスクがあります。これは見る側にとって大きなデメリットです。
参考リンク(欠番回の魅力と名作回を詳述している記事)。
【マニアだけが知っている】『美味しんぼ』欠番回の魅力、お教えします – 80年代アニメ研究ブログ
欠番回を見たい場合、現時点で正規の方法は限られています。まず整理しておくべきことがあります。
配信サービス(AmazonプライムビデオやU-NEXT、Huluなど)では、現在も全121話のみの配信となっており、欠番15話は視聴できません。これはサービスを追加契約しても変わりません。どのサブスクを使っても欠番回は見られないというのが現状です。
CSテレ朝チャンネルでも同様に、15話はスキップされた状態で放送されているため、録画しても欠番回は録れません。
唯一の正規視聴方法は、2016年にバップ(VAP)から発売されたデジタルリマスター版「美味しんぼ Blu-ray BOX」または「美味しんぼ DVD BOX」です。このBOXは全3巻構成で、欠番含む全136話を収録しています。
| BOX番号 | 収録内容 | 参考価格(定価) |
|---|---|---|
| BOX1 | 第1話〜第45話 | Blu-rayで約2万円台 |
| BOX2 | 第46話〜第99話 | 同上 |
| BOX3 | 第100話〜第136話 | 同上 |
デジタルリマスター版は画質・音質が改善されており、放送当時のVHS録画とは比較にならないクオリティで視聴できます。コレクターアイテムとしての価値も高く、発売から年月が経っているため現在は定価より高値で取引されているケースもあります。購入を検討する場合は、Amazonや楽天市場で在庫状況と価格を確認してから判断するのが得策です。
DVDレンタルについては、2025年現在、実店舗のTSUTAYAなどは大幅に縮小しており、在庫が確保されているかはエリアによって異なります。ネットレンタル(TSUTAYA DISCASなど)を利用する方法も選択肢の一つです。
欠番回を見るにはBlu-ray/DVDが基本です。
参考リンク(欠番回を正規で見る方法について詳述されている記事)。
マンガ・アニメの「欠番回」を正規に見る方法 配信でカットされた作品を楽しむには – マグミクス
欠番回の問題は「見られないこと」だけではありません。欠番によってストーリーの連続性が損なわれ、配信版だけを見た視聴者が「文脈を失う」という実害が生じている点も見逃せません。
具体的な例を挙げます。第61話「非常食」では第20話「食卓の広がり」の回想シーンが流れますが、配信版では第20話が欠番のため、その回想シーンが突然の意味不明な映像として映ります。初見の視聴者には「これはどのエピソード?」と困惑するシーンです。
また、第57話「フォン・ド・ヴォー」は第55話「しょう油の神秘」の直接の続き話として構成されています。ところが第55話は欠番のため、配信版では第57話で三谷という人物が突然登場し、花村と既にある程度の関係性がある状態でストーリーが始まります。なぜそうなっているのか、視聴者には一切説明がありません。
このように欠番回は、単に「1話が欠けている」だけでなく、関連する他のエピソードの理解にも影響を与えています。特にアニメ最終回(田畑と荒川の結婚式)は、第51話「レモンと健康」での2人の出会いが欠番になっているため、なぜこの2人が結婚しているのかという文脈を失った状態になっています。最終回は見られるのに、その出会いが見られないという皮肉な状況です。
これを避けるためには、まずどの話が欠番なのかを把握してからアニメを見始めることが重要です。欠番一覧を手元に置いておくと、配信版で見ていて「あれ、話数が飛んでいる」と感じた際に、欠番回の内容を別途調べることができます。
原作コミックという選択肢もあります。全15話の欠番回はいずれも対応するコミックの巻が存在しており、アニメでは見られない内容でも漫画では読むことができます。ただし、第123話「究極vs至高 対決!! スパゲッティ」に対応する巻は、Amazonの紙の本では取り扱いが終了している場合があるため注意が必要です。
物語の文脈を大切にしたい方には、コミック併読が非常に有効です。
参考リンク(アニメ美味しんぼの欠番回と放送禁止理由の詳細解説)。
アニメ「美味しんぼ」放送禁止となった回とその理由 調べてみました – Takashino Blog