たった10日の練習でオーボエ協奏曲を撮影した福士誠治は、実は本番前夜まで「吹ける気がしない」と語っていました。
黒木泰則(くろき やすのり)は、二ノ宮知子の漫画『のだめカンタービレ』に登場するオーボエ奏者です。原作での設定は1981年11月13日生まれ、蠍座、血液型B型、身長175cm、埼玉県川越市出身となっています。「森光音楽大学」在籍の実力派オーボエ奏者として物語に登場し、ドラマでは第6話から姿を現します。
彼の大きな特徴は、リード(オーボエの音を出すための薄い葦の薄板)を毎日自分で削ることを「日課であり趣味」としているほどの真面目さと職人気質です。オーボエという楽器は、リードのわずかな状態が音色を大きく左右するため、演奏家が自分でリードを手作りするのは珍しくありませんが、黒木の場合はほぼ生活の一部として習慣化しているほどの徹底ぶりです。つまり職人気質が極まったキャラクターです。
クールで実直な性格ゆえ「いぶし銀の武士」と評されることも多く、ファンの間では「のだめカンタービレの登場人物の中で唯一まともなキャラクター」と親しまれています。あだ名は「くろきん」で、フランス人からは「ヤス」と呼ばれます。
のだめこと野田恵に一目惚れし、彼女を本名の「恵ちゃん」と呼ぶ数少ない存在としても知られています。コミカルな登場人物が多い本作において、その古風で誠実な人柄は際立っており、主人公・千秋真一からも演奏の実力を一目置かれています。黒木くんが唯一の良識派、というのが基本です。
オーボエという楽器自体、オーケストラの中でも「オーボエが音程の基準を決める」という特殊な立ち位置があります。実際、オーケストラでは開演前の音合わせをオーボエが主導するのが慣習です。黒木が演奏シーンで弾くモーツァルトのオーボエ協奏曲ハ長調は劇中の見せ場のひとつで、ファンの記憶にも深く刻まれています。
黒木泰則のキャラクター詳細(NeoApo アニメ・ゲームデータベース)
ドラマ版での黒木泰則役を演じたのは、俳優の福士誠治(ふくし せいじ)さんです。1983年6月3日生まれ、神奈川県川崎市麻生区出身、身長178cm、血液型O型。特技はけん玉2段、趣味はギターとピアノと、音楽的なバックグラウンドを持っていました。
福士誠治さんはドラマ版『のだめカンタービレ』において、第6話からの後半参加という形でキャストに加わっています。チームのワークが出来上がった後から入るというのは俳優にとって難しい側面もありますが、その落ち着いた存在感でドラマに厚みをもたらしました。
特筆すべきは、オーボエの演奏についてです。福士さんはピアノが弾けて楽譜が読めるという下地があったものの、オーボエは完全な未経験からのスタートでした。驚くべきことに、役をもらって練習を始めてわずか10日目にモーツァルトの「オーボエ協奏曲ハ長調」の撮影を行ったとのことです。これは吹き替えなしでの演奏であり、ファンの間でも「演技には見えない」と評される出来栄えでした。
これは例えるなら、まったくの初心者が10日でクラシックの独奏曲を演奏するようなもので、通常であれば習得に数年かかる楽器の難所を短期間でクリアしたと言えます。茂木大輔(元NHK交響楽団首席オーボエ奏者)の著書でも、福士さんが楽譜を読める俳優として指導しやすかったと記されており、音楽的な素養が短期習得を可能にしたと考えられています。
また、福士誠治さんのプロフィールにはギターとピアノへの造詣が記されており、2018年には音楽家の濱田貴司さんとロックバンド「MISSION」を結成するなど、俳優業と並行して音楽活動も続けています。のだめカンタービレがきっかけの一部になったとも言え、役が本人の一面を引き出した好例と言えるでしょう。これは使えそうです。
2006年10月から12月にかけてフジテレビ系で放送された『のだめカンタービレ』は全11話、平均視聴率は約18.9%(関東地区)という大ヒット作品です。最終回は21.7%に達し、その年の秋ドラマランキングで2位を記録しました。当時の月9ドラマとしては異例のクラシック音楽ブームを巻き起こした作品でもあります。
以下に主要キャストをまとめます。
| 役名 | 俳優名 | 楽器・担当 |
|---|---|---|
| 野田恵(のだめ) | 上野樹里 | ピアノ |
| 千秋真一 | 玉木宏 | 指揮者 |
| 峰龍太郎 | 瑛太(現:永山瑛太) | ヴァイオリン |
| 三木清良 | 水川あさみ | ヴァイオリン |
| 奥山真澄 | 小出恵介 | ティンパニ |
| 黒木泰則 | 福士誠治 | オーボエ |
| 菊地亨 | 向井理 | チェロ |
| 江藤耕造(ハリセン) | なだぎ武 | ピアノ科教授 |
| フランツ・シュトレーゼマン(ミルヒー) | 竹中直人 | 指揮者 |
特筆すべき点として、ドラマ版には本物のイタリア人指揮者ズデニェク・マーツァル(当時チェコフィル首席指揮者)がヴィエラ先生役として出演しています。フィクションのドラマに世界的指揮者が出演するという異例の抜擢で、演奏シーンのリアリティを高めました。意外ですね。
瑛太さん(現・永山瑛太)と水川あさみさんは、本作を機にその存在感が広く認知されるきっかけとなり、以降も各々の代表作を重ねていきます。向井理さんはドラマ当時まだ無名に近い存在でしたが、菊地亨役での好演が評価され、翌年以降に大きくブレイクしています。つまり本作は多くの俳優の出世作でもあります。
また、主人公のだめが弾くピアノは映画版(最終楽章)において吹き替えを中国人ピアニストのラン・ランが担当し、千秋のピアノの吹き替えはピアニストの清塚信也さんが務めるなど、本格的な音楽へのこだわりが随所に反映されています。
のだめカンタービレ(テレビドラマ)Wikipedia ─ キャスト・視聴率情報
2023年にシアタークリエで上演されたミュージカル版『のだめカンタービレ』では、黒木泰則役を竹内將人さんが演じました。主役ののだめには上野樹里さんが続投、千秋真一役には三浦宏規さんが起用されるなど、注目のキャスティングが話題を呼びました。
| メディア | 黒木泰則キャスト |
|---|---|
| テレビドラマ(2006年フジテレビ) | 福士誠治 |
| アニメ版 | 松風雅也(声優) |
| ミュージカル版(2023年) | 竹内將人 |
| ミュージカル シンフォニックコンサート(2025年) | 竹内將人(続投) |
アニメ版の黒木泰則の声を担当したのは声優の松風雅也さんです。クールで誠実なキャラクターの雰囲気を、凛とした低めのトーンで表現し、ファンからも好評を得ています。
ミュージカル版の竹内將人さんは、2023年初演での「鮮烈な印象」が評価され、2025年開催のシンフォニックコンサートでも引き続き黒木泰則役を担当しています。歌唱力を要するミュージカルという形式において、寡黙で義理堅い黒木のキャラクターをどのように表現するかが注目ポイントです。竹内さん続投が条件です。
また、2023年ミュージカルではシュトレーゼマン役に竹中直人さんがドラマ版から引き続き出演するなど、旧キャストの一部が継承される形になっています。ドラマをリアルタイムで観ていた世代にとっては懐かしさと新鮮さが混在する公演となりました。
ミュージカル『のだめカンタービレ』公式キャスト一覧(東宝ステージ)
のだめカンタービレで黒木くんが演奏するオーボエという楽器は、ドラマを観て「自分もやってみたい」と思った人が多い一方で、習い始めると「こんなに大変だとは思わなかった」と感じる人が続出する楽器でもあります。これは厳しいところです。
まず、オーボエはリードを自分で作らなければならないという点が他の管楽器と大きく異なります。クラリネットやサックスのリード(市販品で1枚約300〜500円)と違い、オーボエのリードは葦(ケーン)を加工・整形して自分で仕上げる必要があり、道具をそろえるだけでおよそ1〜2万円かかります。黒木くんがロビーでリードを削るシーンは、プロ奏者の日常をリアルに描いたものです。
次に、オーボエは「オーケストラで最も肺を使う楽器」とも呼ばれます。音を出すのに使う息の量がフルートなどに比べて少ないため、逆に息を「吐ききれない」圧迫感が生じやすいと言われています。長時間の演奏では「息の逃し方」が課題になるほどです。これはイメージとは正反対です。
それでも、のだめカンタービレが放送された2006年前後はオーボエを始める人が急増したと言われており、楽器店でのオーボエ販売数が増えたというエピソードもあります。黒木くんの誠実な魅力と演奏シーンのかっこよさが、難しいとわかっていても「やってみたい」と思わせるほどの影響力を持ったと言えます。つまり黒木くんの影響力は絶大です。
オーボエを実際に始めたいと思った場合、まず音楽教室での体験レッスン(多くが無料〜3,000円程度)から試してみるのが現実的です。楽器を購入する前に、まず音が出るかどうか体験できる環境を選ぶことで、無駄な出費を防ぐことができます。楽器選びで迷ったときは、音楽専門店のスタッフに「のだめカンタービレで黒木くんが使っているような入門機を教えてほしい」と伝えると、ちょうどよいレベルのモデルを紹介してもらえることが多いです。体験レッスンが条件です。
オーボエ奏者から指揮者へ——茂木大輔の音楽人生(のだめのオーボエ考証にも関わった元NHK交響楽団首席オーボエ奏者のインタビュー)