戸田恵梨香が少林寺拳法の初段を持っていなければ、あの槇絵は生まれなかった。
映画『無限の住人』は、沙村広明による累計発行部数750万部超の人気漫画を原作とした実写映画です。1993年から『月刊アフタヌーン』(講談社)で連載がスタートし、全30巻にわたる大作として多くのファンに支持されてきました。舞台は江戸時代。不死身の身体を持つ人斬り「万次(まんじ)」と、両親を剣客集団に殺された少女「浅野凛」が、復讐の旅に出るというダークな時代劇です。
実写映画版は、バイオレンス作品で世界的な評価を得ている三池崇史監督が手がけ、主演に木村拓哉、ヒロイン・凛役に杉咲花という布陣で2017年4月29日に公開されました。オール京都ロケで2015年11月から約2ヶ月にわたって撮影が行われています。
世界での注目度も高く、第70回カンヌ国際映画祭の特別招待作品にも選出されました。これは日本映画として非常に名誉ある選出です。
つまり、本作は国内だけでなく国際的にも評価された作品ということですね。
木村拓哉をはじめ、全キャスト・スタントなしの「ノースタント」でアクションに挑んだことも大きな話題となりました。戸田恵梨香も例外ではなく、初の本格的なアクション映画に体ひとつで臨むことになります。
無限の住人 - Wikipedia(原作・映画のキャスト・スタッフ詳細)
戸田恵梨香が演じた乙橘槇絵(おとのたちばな・まきえ)は、本作における最大の見どころのひとつといえるキャラクターです。槇絵は、最強無敵の剣客集団「逸刀流」の統主・天津影久(福士蒼汰)に深く思慕を寄せ、その命に従って生きる女剣士。普段は遊女として暮らしながらも、剣を取れば主人公・万次(木村拓哉)さえも圧倒する圧倒的な強さを誇ります。
その武器は「春翁(はるのおきな)」と呼ばれる、長刀と三節棍を組み合わせた特殊な形状の三節槍。扱いが非常に難しく、柔軟かつ素早い動きが求められる武器です。槇絵が強い理由が条件です。
さらにキャラクターとして深みがあるのは、圧倒的な強さの裏に「殺しへの迷い」を抱えているという点です。武家の娘として生まれ、剣の才能では兄をも上回っていたがために兄のプライドを深く傷つけ、兄を失うという過去を持ちます。そうした内面の葛藤と、遊女としての妖艶さ、剣士としての鋭さを同時に体現しなければならない、非常に難易度の高い役どころでした。
映画の公式サイトでも「姿を見た人間は必ず死に追いやられる」と紹介されるほどの強さと存在感。いいことですね。
原作ファンの間でも「実写でここまで槇絵を再現できるのか」という期待と不安が入り混じっていましたが、公開後には「かわいくて綺麗で強い槇絵で最高」「強くて麗しい槇絵の再現度高すぎ」と大きな好評を獲得しました。
オリコン:戸田恵梨香インタビュー「初の本格アクション、木村さんに助けられた」(役作りと槇絵の人物像について)
戸田恵梨香が初の本格アクション映画にもかかわらずあれほどの立ち回りを見せられた背景には、幼少期から培ってきた武術の素養があります。これは意外と知られていない事実です。
戸田の父は元少林寺拳法師範。子どもの頃から父の指導のもとで少林寺拳法を学び、自身も初段を取得しています。2024年1月放送の日本テレビ「DayDay.」に出演した際にも、父との厳しい稽古のエピソードを明かしています。
少林寺拳法の初段とは決して簡単に取れるものではなく、型の習得から組み技、護身術まで一定水準以上の身体能力と理解力が求められます。日本全国の道院に通う人々の多くは、初段取得まで数年の継続が必要です。
武術経験が条件です。
この経験が、映画での体幹の安定感や動きの機敏さ、高所からの跳躍の軽やかさとして活きていたと、記事でも指摘されています。体の動きに無駄がないと評された所以は、まさに幼少期からの蓄積にあったのです。
また、撮影準備に関して興味深いエピソードがあります。出演が決まった際、ドラマで共演していた堤真一と古田新太の両名に「本格的な殺陣への準備として何をすればいいか」と相談したところ、返ってきたのは「身体は絶対に作るな」というアドバイスでした。ジムで事前に身体を鍛えても現場で求められる動きとは異なるため、稽古の中で生まれる筋肉に従えという意味です。戸田はそのアドバイスに従い、現場稽古に集中することを選びました。
スポニチ:戸田恵梨香、元少林寺拳法師範の父とのエピソードを明かす(武術背景の詳細)
撮影現場の過酷さは、戸田恵梨香自身が後のインタビューで詳細に語っています。なかでも特に印象的なのが、万次役・木村拓哉との対決シーンにまつわるエピソードです。
ふたりのバトルシーンは、なんと丸々1週間をかけて撮影されました。これは一般的な映画の1シーンとしては異例の時間です。
その理由のひとつが、セットの狭さでした。撮影現場のセットが想定より狭く、槇絵の武器である三節槍を振り回すスペースが足りない。そこで三池崇史監督、木村拓哉、戸田恵梨香の3人が現場でアイデアを出し合い、武器の特徴を活かしながら動き方を一から考え直すという作業が行われたのです。
さらに、槇絵の刃が万次の武器とカチリと合わさる場面では、リハーサルでは一発OKだったのに、本番では三池監督の希望により本身(真剣)を使用することになりました。1ミリでもずれると撮り直しになるため、筋肉痛の中で何十テイクも繰り返す日々が続いたといいます。
厳しいところですね。
毎日の撮影後は「泥のように眠る」状態で、翌朝目が覚めると腕も足も体幹も「鉛のように重くなって身体を起こす動作さえ苦しかった」と振り返っています。撮影終了後には「向こう10年、もうアクションはやらなくていいや」と感じたほどの消耗だったそうです。
それでも撮影の中で「壁を使って万次の頭をキックする場面が決まったとき、入ったという確かな感触があって、それはすごく気持ちよかった」と、達成感も語っています。全身全霊で向き合ったからこそ、スクリーンに残る圧巻のアクションが生まれたのです。
槇絵を演じた戸田恵梨香への最大の賛辞は、他でもない原作者・沙村広明本人から寄せられています。
映画の公式アカウントが行ったトークショーで、好きなキャラクターを問われた沙村先生は即座に「槇絵」と回答。そして「戸田恵梨香さんの脚が本当に良いですね。実際に槇絵は、あの脚の美しさを描いたんです」と語りました。
これは単なるお世辞ではありません。つまり、沙村先生は槇絵というキャラクターをデザインした際に美しい脚のラインを意識して描いており、戸田の脚がそのイメージをまさに体現していたということです。
原作者が自作のキャラクターのモデルになり得ると感じるほどの適役だった、ということですね。
さらに戸田の演技については、太ももの付け根まで深くスリットの入った着物に身を包み、アクロバティックな高所からの跳躍を軽やかにこなす姿も高く評価されています。「舞を意識した」と戸田自身が語っていたように、単なる格闘技の動きではなく、まるで踊るような滑らかさが槇絵のキャラクター性を際立たせました。
ネット上でも「アクション女優としての飛躍を期待せずにはいられない」という声が多く上がり、初の本格アクションでここまでのクオリティを見せた戸田への評価は非常に高いものとなっています。
出番が少ないにもかかわらず存在感が際立っていた点も、槇絵=戸田恵梨香のハマり具合を示すエピソードといえるでしょう。
映画『無限の住人』で戸田恵梨香が演じた槇絵は、作品の中での登場時間は決して長くありません。主人公・万次(木村拓哉)でも、ヒロイン・凛(杉咲花)でもない、いわば強力な敵役のひとりです。それでも公開後の口コミでは「戸田恵梨香の槇絵が一番印象に残った」という感想が多く見られました。
これは「限られた出番で圧倒的な印象を残す」という、役者としての高度な技術の証明です。
映画における脇役の存在感は、しばしば作品の評価を左右します。1シーンでも強烈に記憶に残るキャラクターがいると、観客は「あのシーンがよかった」と他人に話し、口コミが広がる構造があります。戸田の槇絵はまさにその役割を担いました。
これは使えそうです。
また、この経験は戸田恵梨香自身のキャリアにも影響を与えています。もともとラブコメやサスペンスで知られていた彼女がアクション映画で高評価を得たことで、役者としての幅広さがさらに認知されることになりました。撮影後に「もうアクションはやらない」と一度は思ったものの、「身体が動くうちにやっておくべき」と考えを改めたというエピソードは、この経験がいかに彼女の心に刻まれたかを示しています。
さらに注目したいのが、初の本格アクション作品でノースタントを貫いた点です。スタントマンに頼ることなくすべての動きを自分でこなすことで、動きの細部に至るまで「自分のもの」として体現できる。観客はそのリアルさを無意識のうちに感じ取ります。
少林寺拳法初段という素地があったとはいえ、それだけでは映画のアクションは成立しません。現場での1週間以上にわたる試行錯誤、毎日の筋肉痛との戦い、そして三池崇史監督や木村拓哉からの指導といった要素が組み合わさって、あの槇絵が完成したのです。
映画『無限の住人』はPrime Videoで現在も視聴可能です。戸田恵梨香の槇絵の圧倒的な存在感を、ぜひ自分の目で確かめてみてください。
Filmarks:無限の住人の動画配信サービス・視聴方法まとめ(Prime Videoなどで視聴可能)