「夢色チェイサー」の作曲者・筒美京平は、実はアニメ専門の作曲家ではなく歌謡界最多ヒット作曲家です。
『機甲戦記ドラグナー』は、1987年2月7日から1988年1月30日までテレビ朝日系で放送されたサンライズ制作のロボットアニメです。全48話が放映され、時間帯は毎週土曜17:30〜18:00というゴールデン直前の枠でした。舞台は西暦2087年。月に誕生した軍事国家「ギガノス帝国」が地球連合に宣戦を布告し、地上の7割がギガノスに占領されているという設定です。
その世界観は重厚で本格的なSFミリタリー路線でした。前番組である『機動戦士ガンダムZZ』の後継として、ガンダムシリーズのリニューアルを目指した企画から生まれた作品です。主人公・ケーン・ワカバをはじめとする3人の高校生が、偶然にも新型メタルアーマー「ドラグナー」のパイロットとなり、追撃艦隊と戦いながら地球連合軍本部を目指すという構成です。
つまり本作のOPテーマは、そんな戦争と青春が交錯する物語のド頭を飾る楽曲でした。OPソングは視聴者の最初の印象を決定づけるものです。だからこそ、制作スタッフは楽曲・映像の両面で全力を注ぎ込んだのです。
前期OPは第1話〜第26話まで使用され、後期OPは第27話〜最終話まで使用されました。2つのOPはそれぞれ異なる歌手・スタッフが担当しており、作品の前半と後半で大きく雰囲気が変化するという珍しい構造になっています。これが鑑賞者に強烈なコントラストを与え、後年まで語り継がれる理由の一つです。
▶ サンライズワールド公式:機甲戦記ドラグナー キャラクター・OP・ED情報(公式)
前期OPテーマ「夢色チェイサー」を語るうえで欠かせないのが、その豪華な制作スタッフです。スタッフは以下のとおりです。
| 役割 | 担当者 |
|---|---|
| 歌 | 鮎川麻弥 |
| 作詞 | 竜真知子 |
| 作曲 | 筒美京平 |
| 編曲 | 鷺巣詩郎 |
作曲を担当した筒美京平は、昭和の歌謡界で3000曲以上のヒット曲を世に送り出した"歌謡界の帝王"とも呼ばれる人物です。「また逢う日まで」「魅せられて」「スニーカーぶるーす」など、アイドルや歌謡曲のジャンルを超えて日本の音楽史に深く刻まれた作曲家です。アニメ専門ではないにもかかわらず、子ども向け〜青年向けを問わず音楽的完成度の高い楽曲を提供し続けた稀有な存在です。
「夢色チェイサー」のサビは一度聞けば耳に残る高揚感のあるメロディで、戦闘へ向かう緊張感と青春のスピード感を的確に表現しています。BPM167という疾走感あふれるテンポも特徴的です。
編曲を担当した鷺巣詩郎は、現在では『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの音楽で世界的に知られる作曲家・編曲家です。1987年当時はまだ若手編曲家として活躍していた時期でしたが、そのキャリアの礎となる仕事の一つが、この「夢色チェイサー」の編曲であったと言えます。
鷺巣詩郎の編曲はパワフルなブラスと緻密なリズムセクションが組み合わさったスタイルが持ち味です。「夢色チェイサー」でもその特徴が存分に発揮されており、筒美京平の骨格のしっかりしたメロディに対して、鷺巣詩郎が立体的かつダイナミックなアレンジをのせることで、最終的なOPテーマとしての完成度が引き上げられています。
歌い手・鮎川麻弥は「星空のBelieve」(機動戦士Zガンダム)など、1980年代のサンライズ系ロボットアニメのOPを複数担当した実力派歌手です。力強く、かつ繊細な声質はロボットアニメのOPとの親和性が非常に高く、「夢色チェイサー」でもその魅力が最大限に発揮されています。
作詞の竜真知子も「イリュージョンをさがして」(同作ED1)を手がけており、作品全体の空気感を統一することに貢献しました。まさに最高峰のスタッフが揃った1曲と言えます。
▶ Wikipedia:筒美京平 – 生涯3000曲以上を残した作曲家の詳細プロフィール
前期OPアニメを語る上で絶対に外せないのが、「バリグナー」という存在です。バリグナーとは、前期OPアニメの作画を担当した大張正己(おおはりまさみ)氏によって大幅にアレンジされたドラグナー1型のことを指します。
大張正己は当時から卓越したメカ作画の技術で知られており、航空機的なシルエット、ガルウイング型のリフターユニット、前方に大きく突き出したバイザーなど、原設定デザインとは大きく異なる独自のアレンジを施したのです。その結果、OPに登場するドラグナー1型は本編中の機体と明らかに異なる格好いいシルエットを持つことになりました。
当時のマニア層が「バリ(大張=バリバリ)なドラグナー」として「バリグナー」と呼び始め、それが定番の通称として定着しました。ちなみに「バリグナー」という呼称は公式設定ではなく、ファンが自然発生的に生み出した愛称です。
このバリグナーが話題を呼んだ最大の理由は、「本編より格好いい」と言わしめるほどの圧倒的な完成度でした。映画『トップガン』を思わせる発進シーンは特に評価が高く、初めて見た視聴者に「鳥肌が立った」という感想を抱かせるほどのインパクトを与えました。
ところが第14話からは、このバリグナーの数カットが元デザインに近い修正版に差し替えられています。設定デザインへの整合性を取るための処置でしたが、この変更を惜しむファンの声は今も絶えません。なお、前期OPアニメの絵コンテは後にガンダムSEEDシリーズで知られることになる福田己津夫氏が担当しており、演出面でのキレの良さにも貢献しています。
後年、バリグナーへの根強い人気に応える形で、B-CLUBからプラモ用の改造(換装)パーツが発売されました。さらにバンダイの「魂SPEC」シリーズからはオープニングバージョンと銘打ったバリグナー準拠の完成品フィギュアが発売され、多くのファンを狂喜させました。OP映像の90秒にしか登場しない"幻のメカ"が完全立体化されたという事実は、このOPがいかにファンの心に深く刻まれているかを端的に示しています。
▶ ニコニコ動画:「バリグナー」タグ – ファン動画まとめと解説コメント
第27話から最終話まで使用された後期OPテーマが、山瀬まみが歌う「スターライト・セレナーデ」です。後期OP・EDのスタッフは以下のとおりです。
| 役割 | OP2「スターライト・セレナーデ」 | ED2「Shiny Boy」 |
|---|---|---|
| 歌 | 山瀬まみ | 山瀬まみ |
| 作詞 | 森雪之丞 | 森雪之丞 |
| 作曲 | 井上大輔 | 井上大輔 |
| 編曲 | 大谷和夫 | 大谷和夫 |
山瀬まみは1987年当時、アイドル歌手として活躍していた人物です。後にバラエティタレント・バラドルとして一世を風靡することになりますが、この時点ではあくまでも歌手としての起用でした。前期の鮎川麻弥がアニソン歌手としての実績を積んでいたのとは対照的に、山瀬まみはアイドル路線からの起用であり、当時は驚きをもって受け止めるファンも少なくなかったといいます。
後期からは版権商品の売れ行き不調を受けた路線変更が実施されました。それに伴い音楽担当も変わり、『超時空要塞マクロス』などを手がけた羽田健太郎氏がBGM担当として途中参加しています。
「スターライト・セレナーデ」の曲調は前期とは対照的に、どこか柔らかく幻想的な雰囲気を持っています。作曲の井上大輔(いのうえだいすけ)は「Zガンダム」でも関わった実力派で、哀愁のあるメロディラインが持ち味です。宇宙や未来への憧れを感じさせる1曲に仕上がっており、後半の展開からは物語のトーン変化とも見事に呼応しています。
前期OPの疾走感・攻撃的な高揚感と、後期OPの叙情性・幻想的な雰囲気というコントラストは、『機甲戦記ドラグナー』という作品が持つ二面性を象徴しているとも言えます。前期と後期で作品の雰囲気が大きく変わったことは当時批判も受けましたが、現在では「どちらも違う魅力がある」として両OPを評価するファンが多数を占めています。
前期・後期の人気を比較するために大手サイトの歌詞検索やアクセス数データを参照すると、現在も圧倒的に「夢色チェイサー」の人気が高い状況です。ただ「スターライト・セレナーデ」も根強いファンを持っており、後期OPとしての独自の評価が定着しています。これはいい傾向ですね。
▶ 歌ネット:山瀬まみ「スターライト・セレナーデ」歌詞ページ(公式歌詞データベース)
放送当時の1987年〜1988年は、ロボットアニメの最盛期が一段落し、視聴率の苦しい時代でもありました。版権商品の売れ行きも振るわず、本作は中盤から路線変更を余儀なくされた作品です。しかし、放送終了から30年以上が経った現在も、機甲戦記ドラグナーのOPは語り継がれています。これはなぜでしょうか?
まず音楽面での理由です。「夢色チェイサー」は筒美京平・鷺巣詩郎・竜真知子・鮎川麻弥という昭和アニソン屈指のドリームチームが揃った作品です。特に筒美京平と鷺巣詩郎の組み合わせは他のアニメ作品では見られない異色のコラボであり、後年その価値が改めて認識されるようになりました。筒美京平は2020年10月7日に逝去しており、「夢色チェイサー」はますます歴史的名曲としての位置づけを強めています。
次に映像面での再評価があります。バリグナーを中心としたOPアニメーションは、YouTubeやニコニコ動画での関連動画を通じて新世代のアニメファンにも広まりました。2022年には放送35周年を記念してBlu-ray BOXが55,000円(税込)で発売され、SD映像をHD化した鮮明な映像でバリグナーが再び脚光を浴びました。それまでLD版しか存在しなかったことを考えると、長年の悲願が叶ったとも言えます。
また、2001年発売の『スーパーロボット大戦A』への参戦をきっかけに作品全体の人気が再燃し、2005年にDVD-BOXが発売されるに至ったことも再評価の後押しになりました。スーパーロボット大戦シリーズは過去の名作を現役プレイヤー世代に再紹介する機能を持っており、ドラグナーもその恩恵を強く受けた作品の一つです。
🎮 スーパーロボット大戦ファンにとっては、ゲーム内で「夢色チェイサー」が流れるシーンが本作への入口になったケースも多いです。
さらに、後期OPを担当した山瀬まみがその後バラエティシーンで広く認知されたことで、「あの山瀬まみがドラグナーのOPを歌っていたのか」という逆引きでの再発見も後年相次ぎました。これは意外ですね。
再評価の流れは現在も続いています。2021〜2022年にかけて、魂ネイションズから完全新規造形の「ドラグナー1カスタム」「ドラグナー2カスタム」「ドラグナー3」が立体化されました。OPがきっかけで興味を持った新規ファンが、グッズ購入という形で作品を支えるサイクルが生まれているのです。OPが作品の入口であり続けているという構図は、今も変わっていません。
良いものは必ず出てくる。機甲戦記ドラグナーのOPが語り続けられる理由は、まさにその一言に集約されます。放送当時は不遇だった作品が、時代を経て正当に評価されていくプロセスは、昭和アニメファンにとって深い感慨を呼び起こすものです。
▶ magmix:放送から35年「良いものは必ず出てくる」ドラグナー再評価の経緯(詳細レポート)