「NOISEはあなたが思っている映画主題歌とまったく違う生まれ方をしました。」
映画『ブルーピリオド』の主題歌に起用されたのは、WurtS(ワーツ)が書き下ろした「NOISE」という楽曲です。WurtSは2021年に本格始動した21世紀生まれのソロアーティストで、作詞・作曲・アレンジはもちろん、アートワークや映像制作に至るまですべてをセルフプロデュースするという異色の存在です。
注目すべきは、彼が素顔を公開していないいわゆる"覆面アーティスト"だという点です。ライブやメディア出演では帽子を被り目以外を隠した状態で登場することが多く、本名や年齢を含む多くのプロフィールが非公開となっています。覆面のまま日本武道館公演(2024年10月)を達成するというインパクトある軌跡は、まさにブルーピリオドの主人公・八虎のスタイルとも重なります。
WurtSが一躍世間に知られるきっかけになったのは2021年1月。TikTokに投稿したオリジナル曲「分かってないよ」のサビがわずか約1ヶ月で100万回再生を突破し、若者の間で急速に拡散されました。その後も勢いは止まらず、2024年時点での総ストリーミング再生数は4億回超えを記録しています。
つまり、ストリーミング4億回超えのアーティストです。
映画「ブルーピリオド」主題歌に決定した2024年7月時点でも、その人気は国内若者層を中心に圧倒的なものがありました。さらに「分かってないよ」は「TikTok流行語大賞2021」にノミネートされ、2022年には1stアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』が「第14回 CDショップ大賞 2022」大賞(青)を受賞するという快挙も達成しています。
ちなみにレーベルはEMI Records / W's Projectで、事務所はUKPM所属です。
WurtS公式プロフィール:活動歴・アーティストとしてのスタンスが詳しく掲載されています。
「NOISE」という楽曲は、映画のためだけに作られたわけではありませんでした。これは知られていない事実のひとつです。
WurtS本人のコメントによれば、「NOISEはもともと音楽活動を始めた頃に抱いていた、殻を破りたいという感情から生まれた」とのこと。映画の主題歌として依頼を受けた際に、その個人的な感情と作中の主人公・八虎の心境が強くリンクしていると感じたことで、改めて楽曲の肉付けをしていったという経緯があります。
つまり最初から映画ありきの曲ではなかったということですね。
サビに登場する印象的なフレーズ「まだか?」には2つの意味が込められています。ひとつは、音楽を作るとき音が「降ってくる」瞬間を待ち望む感覚。もうひとつは、葛藤のなかで目標に向かって走り続けながら「まだ到達できていない」という焦りです。この2重の意味が、受験というゴールへひたすら邁進する八虎の姿と完璧に重なっています。
また楽曲の構成にも注目です。WurtS自身の楽曲は通常あまり間奏を設けないスタイルですが、「NOISE」では葛藤から成長へと転換する瞬間を音楽で表現するため、異例の間奏パートを取り入れています。間奏があるWurtS曲というのは珍しいです。この構成上の工夫が映画のエンドロールで流れたとき、鑑賞後の余韻を深める効果を生んでいるといえるでしょう。
WurtSはJ-WAVEのインタビューで「自分が音楽を作るときは、自分の音楽がWurtSの音楽じゃなくなることが一番嫌だ」と語っており、外部からの意見と自分の表現したいメッセージのバランスを意識していると述べています。それだけに、「NOISE」は純粋に"自分ごと"として作られた楽曲であるといえます。
J-WAVE公式インタビュー:眞栄田郷敦×WurtSが「NOISE」の制作秘話や葛藤・表現への思いを語った対談記事です。
映画『ブルーピリオド』は、山口つばさによる同名漫画(累計発行部数700万部超)を実写映画化した作品です。公開は2024年8月9日(金)、主演に眞栄田郷敦、共演に高橋文哉・板垣李光人・桜田ひより、監督は萩原健太郎(『東京喰種 トーキョーグール』など)、脚本は吉田玲子、音楽プロデュースをYaffleが担当しています。
物語の主軸は、高校生・矢口八虎(眞栄田郷敦)が偶然出会った1枚の絵に衝撃を受け、「青く見えた渋谷の朝」を絵にすることで美術の世界に踏み込む青春物語です。東京藝術大学(通称:東京藝大)という狭き門を目指して、正解のない芸術の世界で葛藤しながら成長していく姿が描かれています。合格倍率の高い東京藝大を舞台にした受験物語という側面も持ちます。
「NOISE」が流れるのはエンディング(エンドロール)のシーンです。東京藝術大学に合格した八虎が真っ白なキャンパスを前に「この世界の誰よりも今、俺の絵に期待している」と心の中で呟く、作品のクライマックス直後のシーンに流れます。エレクトロニックな音とギター・ドラムが組み合わさったエネルギッシュなサウンドが、八虎の高揚感と重なり合います。
エンドロールで聴く「NOISE」は格別ですね。
眞栄田郷敦も「映画を観終わったあとに聴くと、映画全体の印象をそのまま感じられる曲になっている」と評しており、単なる主題歌を超えた作品の締めくくりとして機能していることがわかります。映画を観た後でもう一度「NOISE」を聴き返すことで、八虎の旅路がより深く刻み込まれる仕掛けになっているのです。
THE FIRST TIMES:映画『ブルーピリオド』公開情報とWurtSのコメントが詳しく掲載されたオフィシャル情報ページです。
「NOISE」以外にも、映画『ブルーピリオド』には映画本編を効果的に彩る楽曲が存在します。映画全体を通じて流れた主な楽曲は以下の4曲で、それぞれが八虎の成長段階に合わせて配置されています。
まずオープニングで流れるのはSkaaiの「さなぎ」。八虎が友人たちと過ごす日常的な冒頭シーン(駅を歩く場面・ラーメンを食べる場面など)に流れる楽曲で、柔らかいトーンと良いテンポが、美術に出会う前の「ただ流れに身を任せていた」八虎の日常を自然に描き出しています。「さなぎ」というタイトル自体が、これから変容する主人公の予兆を示していると考えると興味深いです。
次に、八虎が東京藝大を目指して絵を描き始めるシーンで流れるのが荒谷翔大(元yonawoボーカル)の「また会おう」です。映画の音楽プロデューサーであるYaffleと共作されたこの曲は、「それぞれの道の先で、またきっと会えるという希望」を込めた書き下ろし曲です。受験まで620日という長い時間を、八虎が仲間と過ごしながら一歩一歩前進する姿をあたたかく包み込んでいます。
そして、八虎が母親に藝大受験の意志をしっかり伝えラストスパートに入るシーンには荒巻勇仁の「憧憬画」が流れます。「光へ~♪」と伸びやかに歌われるこの楽曲もYaffleプロデュースによるもので、八虎が仲間と共に挑む最終局面のエネルギーを体現しています。
最後にエンドロールを飾るのがWurtSの「NOISE」です。映画の全体構成を俯瞰してみると、「さなぎ」→「また会おう」→「憧憬画」→「NOISE」という流れは、まさに"孵化前の静けさ→出発→加速→羽ばたき"という八虎の成長曲線と一致しています。音楽が物語の補助線として機能している構成は見事といえるでしょう。
これは偶然ではなく計算されたものですね。
Student Walker:映画『ブルーピリオド』で流れる4曲をシーンごとに整理した記事です。
なぜ、数ある人気アーティストの中でWurtSが映画『ブルーピリオド』の主題歌担当に選ばれたのでしょうか。
実はWurtS自身が高校時代に美術部に在籍していたという経歴が、この選択を運命的なものにした可能性があります。WurtSはインタビューで「映画館の中で、自分も一人のキャラクターとなって映画の中の世界で絵を書いているような気分にもなれて、すごくいい体験ができた」と語っており、単なる"お仕事"としてではなく、作品に没頭したことが明らかです。
さらに深いところにある共鳴は、WurtS自身が語る音楽との関係性にあります。「好きから始まったものがいつの間にか自分自身を表現するものに変わって、その重さに耐えきれなくなる時があった」というWurtSの経験は、まさに美術と本気で向き合い始めて苦しむ八虎の心境そのものです。
これは非常に深い共鳴といえます。
WurtSの音楽は「研究者×音楽家」という独自のコンセプトのもと、ダンスミュージックを軸にロック・ヒップホップ・エレクトロを横断するジャンルレスなスタイルを持ちます。この「既存のカテゴリに収まらない」スタンスは、芸術の受験という型破りな目標に踏み込んだ八虎の姿勢とも重なるものです。主題歌の起用には、アーティストと作品の間にある、こうした目に見えないシンクロが存在していたといえます。
「NOISE」が収録されているWurtSの2ndアルバム『元気でいてね。』は2024年10月30日にリリースされており、「ソウルズ feat. suis from ヨルシカ」などの楽曲も収録された充実の内容です。映画を観たあとにアルバム全体を聴いてみると、WurtSの表現の幅と「NOISE」が持つ特別なポジションをより深く理解できるはずです。
また映画のMVは2024年7月24日にYouTubeにてプレミア公開されており、公開後すぐに大きな話題となりました。「NOISE」のMVは映像のクオリティも高く、映画本編とは切り離されたWurtS独自のビジュアル世界が展開されています。まだMVを見ていない方はぜひ確認してみてください。
YouTube公式MV:WurtS「NOISE」のミュージックビデオ(映画「ブルーピリオド」主題歌)。映像と音楽が一体になったWurtSのビジュアル表現を確認できます。